2013年3月5日火曜日

【書評】『日本の変え方おしえます―はじめての立法レッスン』(政策工房著、高橋洋一監修)

ニッポンの変え方おしえます: はじめての立法レッスン近年、反原発デモから韓流反対デモに至るまで、その是非はともかく街頭から盛んに人々の「声」が聞こえるようになったことは確かだろう。
 おとなしくて「お上」の決めることに従順という、日本人のイメージは変わりつつあるのかもしれない。しかしそのような声など、まるで聞こえないかのように、粛々と政治は動いているようにも見える。しかしそれは、政治の側が鈍感なだけが理由だろうか。
 もちろん人々が声をあげることは重要である。しかし本書で言われているように、社会は「法律」によって変わっていくという事実にも目を向けなければならない。
 本書は、法律とはそもそも何なのであるか。法律がどのように作られるのか、といった基礎的なことから、請願や陳情あるいはパブリックコメントなどのように、私たちができる実践的な政治へのかかわり方まで網羅している。しかも「生徒」と「高橋先生」が、かけ合いながら話を進めていくので、誰でも気軽に読みすすめることができる。
 社会を変えたいという意識の高い人間は稀かもしれない。しかしある時、特定の問題に強い憤りを覚えることは誰でもあるだろうし、ひょっとしたら不条理な目に合う可能性もある。そんな時に法律はどうなっているか、法律を変えるには、どこに、どのように要求すればいいのかという視点の有無は大きな違いとなるかもしれない。
 デモによって、人々の声が現れることは良いことだと思う。しかし、一方で政治の「起動ボタン」を、きちんと認識し、戦略的に行動することも重要ではないだろうか。
 さて、本書は入門書ではあるが、現在の政策決定過程の改革についての、重要な提言が含まれている。
 例えば、政治を官僚主導ではなく「政治主導」にするためにはどうすればいいか。飯尾潤は、『日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ』の中で、日本の統治構造を鮮やかに描き出しているが、飯尾の処方箋は、マニフェストによる政治の実現と、政府・与党が一致して政策の立案にあたることであった。いわば、議院内閣制の本来の機能を取り戻させることで「政治主導」を達成しようというものであった。
 まさしくこのようなことを掲げたのが先の民主党であった。しかしマニフェストで掲げていた「埋蔵金」は、思うように掘り出せず、全く書かれていなかった消費税増税を打ち出したことで、自らマニフェスト政治の評判を下げてしまった。さらに政府・与党の一元化を打ち出し、いったんは政策調査会による与党の事前審査を廃止したが、結局党内の反発で復活せざるを得なくなってしまった。
 一方で、官僚の手段に熟知している著者が、本書で掲げるのは議員立法の活用である。特に与党も積極的に活用していくべきだという主張は新鮮に映る。詳細については、本書で是非お読みいただきたいが、いかに「慣例」に過ぎないことで、政策決定過程が根詰まりを起こしているか、読者は驚くことだろう。
 人々の声を民間の立場から政治の世界につなげる「政策起業家」や「政策プロデューサー」などの提言も大変興味深い。本書を通じて、国だけでなく、身近な各地域でも「政策市場」のプレーヤーが登場することを期待したい。



ニッポンの変え方おしえます: はじめての立法レッスン
ニッポンの変え方おしえます: はじめての立法レッスン


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