2013年4月14日日曜日

ネット選挙解禁、有権者が気を付けるべき6つのポイント

 いよいよ公職選挙法改正案が衆議院を通過し、インターネット選挙運動解禁が間近になってきました。そこで今回は、もし改正案が通った場合に、有権者が気を付けるべき点についてまとめました。なお、以下の内容は2013年4月8日衆議院通過時点の法案に基づいています。今後の国会審議で修正等される可能性も考えられますのでご注意ください。

1.未成年は「ネット選挙運動」ダメです。

ネット選挙運動が解禁となっても、未成年者は引き続き禁止です。ですので未成年が、twitterなどで「○○に投票して!」と呟くと、未成年者の選挙運動の禁止(公職選挙法 第138条の3)違反に問われる可能性があります。

2.「事前運動」ダメです。

公職選挙法が改正されると「祝、ネット選挙運動解禁! みんなで○○に投票しよう!」とかツィートする人がいそうですが、さっそくそれ、公職選挙法違反とみなされる可能性があります。特定の候補者を当選させるために行なう選挙運動は、選挙期間しかできません。選挙期間は、公示日(地方選挙の場合、告示日)から投票日の前日までのことで、衆議院議員選挙なら12日間、参議院議員・都道府県知事なら17日間などと細かく決まっています。それ以外の選挙運動は「事前運動」として禁止されています。

3.選挙運動はメールでなくウェブ・SNSで。

よく知られている通り、選挙運動において、メールが送ることができる人は、候補者と政党に限られました。したがって一般有権者が友人・家族に「○○に投票して」とメールで送ると、公職選挙違反に問われかねません。したがって、twitterのDMや、facebookのメッセージなどで送ることにしましょう。なんでメールがだめでSNSは良いのか、謎に思われるかもしれませんが、とにかく法律はそうなってますので気を付けてください。
 候補者の選挙運動用メールを転送することもアウトです。転送者がメールの送信者とみなされます。ただ、あなたが誰か候補者を熱心に応援していて、候補者のメールを知人に伝えたい場合、メール内容をコピー&ペーストし、自分のブログか何かに張り付ける方法なら大丈夫です。SNSで伝える方法もあります。
 また、「選挙運動」ではなく「政治活動」の一環としてならば、メールは自由に使えます。ここが有権者にとって分かりずらいところですが、特定の候補者を当選させるような文面でなければオッケーなわけです。例えば「A候補者に一票を」はダメですが。「候補者Aと候補者Bを比較して、Aの政策の方が実現性が高いと私は思う」というメールは送られるわけです。

4.掲示板の書き込みにも連絡先表示義務があります。

応援サイト・落選運動サイトを作る場合、電子メールなど連絡先を明記しないと、公職選挙法違反に問われる可能性があります(ただし罰則はありません)。また、掲示板への書き込みについても、メールアドレス等の連絡先を記入しなければならないということです。もし名誉棄損とみなされ、かつ連絡先を記入されていない書き込みがなされると、発信者に対して同意照会なくプロバイダー等サービス事業者から即、削除される可能性があります(プロバイダ責任法の特例)。

5.「テレビ」の政見放送をyoutubeなどにアップロードしてはなりません。

テレビでの政権放送・経歴放送を録画し、インターネットにアップロードし、自分のホームページなどに張り付けることは、放送事業者に著作権隣接権が発生しますのでできません。ただ、候補者本人が政見放送と全く同じ動画を作成したもの、あるいは放送事業者に渡す前の動画で、本人がネットに公開したものであれば、それを有権者が拡散することは問題とはなりません。ですのでこの点注意が必要です。

6.ネット人気投票はしないほうがいいです。

ネットでは人気投票、ランキングが比較的に簡単にできます。特に有名なのが、ニコニコ動画の「ニコ割アンケート」です。これは、動画生放送中に、視聴者にアンケートをとれる仕組みですが、これを選挙期間中にやってしまうと、内容によっては、人気投票の禁止(公職選挙法 138条の3)違反に問われる可能性もあります。気を付けましょう。


 はじめに述べたとおり、今回のエントリーは、衆議院を通過した公職選挙法改正案をベースに書いていますが、法案が参議院に送られた後、修正される可能性もあります。また与野党でガイドライン作りが本格的になってきます。そちらでまた変更・追加があり次第、報告します。いずれにしても今回のネット選挙運動解禁は全面解禁ではないことは、有権者もよく認識しておかなければならないでしょう。

2013年4月1日月曜日

「動員」を巡る攻防ーネット選挙運動解禁は「静かな革命」か(2)

 ネット選挙解禁で、変わることが最も期待されている点の一つは、「選挙への関わり方」だろう。

 今までの、有権者の選挙への関わり方は、メディアで大々的に報じられる選挙でもなければ、ビラや葉書など限られた経路を経て得た情報を、一方的に「消費」するぐらいであったといえる。もし、ある候補者を熱心に応援したい、「消費」以上のことをしたい、ということであれば、実際に選挙事務所や後援会事務所に行かねばならず、参加のハードルは非常に高かったといえるだろう。
 また、選挙事務所には独特の雰囲気があって、新参の人間にとってはなかなか声を上げにくい。私自身も窮屈な思いをした経験がある。
 「勝手連」というようなものが、たまに出来上がるのは、そのような理由からでもある。つまり自分たちが、自分たちらしいやり方で、選挙応援をしたいということである。しかし、勝手連という存在自体もまた、普通に生活している人にとっては縁遠い。

 ネット選挙解禁の意義の一つは、このような参加のハードルをかなり下げ、「ライトな参加」を可能にすることである。
 それは、例えば、ネットを通じて知った演説会に参加する、ソーシャルメディアで候補者・政党の情報を拡散する、あるいは動画やブログ、掲示板などに応援の書き込みをするという程度のものである。
 しかし、その効果は侮ることはできない。このような「ライトな参加」は、より深いコミットメントに変化するかもしれないし、なによりも「伝播」していくものだからである。

 人は、意見の内容そのものよりも、「親しい友人の意見」の方に、関心を寄せるらしい。ポール・アダムス『ウェブはグループで進化する ソーシャルウェブ時代の情報伝達の鍵を握るのは「親しい仲間」』によると、情報過多の時代、人は友人からの情報をますます信頼するようになっていて、ウェブさえも人間中心になってきてるという。 であるならば、支持を広げるうえでソーシャルメディアを介した「ライトな参加」はより重要性を増していくだろう。
 そのためには、スケジュールや、選挙の様子など、これまで以上に「情報公開」が重要になってくる。今までであれば、有名な弁士や政党幹部が応援演説にきても、それを告知する方法は限られてきたが、これからは ネットや動画を通じて告知することができるようになる。候補者本人には興味はなくとも、応援弁士への興味を介して実際に出向き、出向いた友人から支持が広がるという経路は、どの政党・候補者も抑えておかねばならないだろう。

 もっと言えば、これは近年注目されている、「政治マーケティング」の流れに掉さすことになるだろう。アメリカ政治では、ケネディ大統領の時代より、メディアや世論調査を駆使したマーケティングの手法は、選挙のたびに磨かれてきた。とくにオバマ大統領は、いわゆる「ビックデータ」に基づくきめ細かい分析とソーシャルメディアを組み合わせ、ボランティアを効率的・組織的に動員し、勝利したと言われている。
 近年、世界中で「選挙のアメリカ化」が言われているが、程度の差こそあれ、日本もその例外ではないだろう。もちろん、政治マーケティングに対しては、これもまた有権者を政治の消費者と見なす手法であり、情報操作的でプロパガンダに過ぎない、中身を伴わない政治が跋扈するだけという批判もある。

 もちろん、そうした批判は一面では正しい。しかし、そう批判していても仕方がない。というのは、こうした、世論や情報を気にする政治の流れは、もはや止めようがないように思えるからである。
 また一方で、ソーシャルメディアは、一方的に有権者が「動員」されるツールかというと、必ずしもそうとは言えないだろう。「アラブの春」しかり、韓国の落選運動などもそうだろう。アメリカ大統領選挙では、各候補者のソーシャルメディアなどでの発言が事実であるかきちんとチェックするFactCheck.orgや、アメリカの民間非営利団体・プロパブリカ(ProPublica)のように、選挙中から現在に至るまで、様々な角度から分析し、いったいどのような選挙であったのか検証し続けているメディアもある。
 このようにネット選挙解禁は、政治の側が有権者を取り込もうとする動きと、政治の側を検証しようとする動きを、ともに加速させるものである。
 その加速が日本ではどの程度のものか、また、その良し悪しについて、現時点では判断することは難しい。ただ、このような「動員」を巡る攻防の最前線を、これまで以上に注視していきたい。