2013年4月1日月曜日

「動員」を巡る攻防ーネット選挙運動解禁は「静かな革命」か(2)

 ネット選挙解禁で、変わることが最も期待されている点の一つは、「選挙への関わり方」だろう。

 今までの、有権者の選挙への関わり方は、メディアで大々的に報じられる選挙でもなければ、ビラや葉書など限られた経路を経て得た情報を、一方的に「消費」するぐらいであったといえる。もし、ある候補者を熱心に応援したい、「消費」以上のことをしたい、ということであれば、実際に選挙事務所や後援会事務所に行かねばならず、参加のハードルは非常に高かったといえるだろう。
 また、選挙事務所には独特の雰囲気があって、新参の人間にとってはなかなか声を上げにくい。私自身も窮屈な思いをした経験がある。
 「勝手連」というようなものが、たまに出来上がるのは、そのような理由からでもある。つまり自分たちが、自分たちらしいやり方で、選挙応援をしたいということである。しかし、勝手連という存在自体もまた、普通に生活している人にとっては縁遠い。

 ネット選挙解禁の意義の一つは、このような参加のハードルをかなり下げ、「ライトな参加」を可能にすることである。
 それは、例えば、ネットを通じて知った演説会に参加する、ソーシャルメディアで候補者・政党の情報を拡散する、あるいは動画やブログ、掲示板などに応援の書き込みをするという程度のものである。
 しかし、その効果は侮ることはできない。このような「ライトな参加」は、より深いコミットメントに変化するかもしれないし、なによりも「伝播」していくものだからである。

 人は、意見の内容そのものよりも、「親しい友人の意見」の方に、関心を寄せるらしい。ポール・アダムス『ウェブはグループで進化する ソーシャルウェブ時代の情報伝達の鍵を握るのは「親しい仲間」』によると、情報過多の時代、人は友人からの情報をますます信頼するようになっていて、ウェブさえも人間中心になってきてるという。 であるならば、支持を広げるうえでソーシャルメディアを介した「ライトな参加」はより重要性を増していくだろう。
 そのためには、スケジュールや、選挙の様子など、これまで以上に「情報公開」が重要になってくる。今までであれば、有名な弁士や政党幹部が応援演説にきても、それを告知する方法は限られてきたが、これからは ネットや動画を通じて告知することができるようになる。候補者本人には興味はなくとも、応援弁士への興味を介して実際に出向き、出向いた友人から支持が広がるという経路は、どの政党・候補者も抑えておかねばならないだろう。

 もっと言えば、これは近年注目されている、「政治マーケティング」の流れに掉さすことになるだろう。アメリカ政治では、ケネディ大統領の時代より、メディアや世論調査を駆使したマーケティングの手法は、選挙のたびに磨かれてきた。とくにオバマ大統領は、いわゆる「ビックデータ」に基づくきめ細かい分析とソーシャルメディアを組み合わせ、ボランティアを効率的・組織的に動員し、勝利したと言われている。
 近年、世界中で「選挙のアメリカ化」が言われているが、程度の差こそあれ、日本もその例外ではないだろう。もちろん、政治マーケティングに対しては、これもまた有権者を政治の消費者と見なす手法であり、情報操作的でプロパガンダに過ぎない、中身を伴わない政治が跋扈するだけという批判もある。

 もちろん、そうした批判は一面では正しい。しかし、そう批判していても仕方がない。というのは、こうした、世論や情報を気にする政治の流れは、もはや止めようがないように思えるからである。
 また一方で、ソーシャルメディアは、一方的に有権者が「動員」されるツールかというと、必ずしもそうとは言えないだろう。「アラブの春」しかり、韓国の落選運動などもそうだろう。アメリカ大統領選挙では、各候補者のソーシャルメディアなどでの発言が事実であるかきちんとチェックするFactCheck.orgや、アメリカの民間非営利団体・プロパブリカ(ProPublica)のように、選挙中から現在に至るまで、様々な角度から分析し、いったいどのような選挙であったのか検証し続けているメディアもある。
 このようにネット選挙解禁は、政治の側が有権者を取り込もうとする動きと、政治の側を検証しようとする動きを、ともに加速させるものである。
 その加速が日本ではどの程度のものか、また、その良し悪しについて、現時点では判断することは難しい。ただ、このような「動員」を巡る攻防の最前線を、これまで以上に注視していきたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿